1.3.擬似立体視の種類(デバイス編) : 【連載】独学で立体視論まとめてみた


前項で「左目から見えているであろう映像を左目にだけ、右目から見えているであろう映像を右目にだけ見せることで、2つの映像から視差を得て、立体感を感じられる」ようにすること、すなわち擬似立体視を説明しました。ここからはその具体的な方法を見て行きたいと思います。

具体的な方法といいますが、大きく2つに分けられます。それは「デバイス(ハードウェア)」と「ソース」です。これは通常のビデオ鑑賞に例えると、「デバイス」が「テレビ」や「DVDプレーヤー」に相当するもので、「ソース」が「DVDに収録されている映像」になります。

この項ではまず「デバイス」について見て行きましょう。「デバイス」とは、つまり「機械」のことです。3D映像が視聴できる機械の種類を紹介します。

立体視のできるデバイス

ヘッドマウントディスプレイ(HMD)

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Photo by Maurizio Pesce

左目に左目の映像を、右目に右目の映像を見せるというと、まず最初に浮かぶのがヘッドマウントディスプレイ(HMD)だと思います。目の前に直接画面があるわけですから、完璧な両眼視差を再現することができ、3D映像を非常に高品質な状態で見ることができます。左右の映像が混じってしまうこと(これをクロストークと呼びます)がありません。

使ったことのない人はご存知ないかもしれませんが、HMDというのは実は「目の前すぐに映像が映る」わけではありません。例えばソニーのHMD「HMZ」シリーズは、20m先に750インチの映像が映るように見えるそうです。なんだか不思議な感じがしますが、この挙動は非常に重要な意味を持つので覚えておいてください。3章で説明します。

さて、非常に高品質な立体感を得られるHMDですが、欠点もあります。まず、一人でしか鑑賞できないこと。そして、画面以外の視界がほぼ完全に遮られること。例えばゲーム等でキーボードを打つのは非常に困難と思われます。そして何より、この機械自体が非常に特殊で、一般の人が買うにはハードルが高いことです。今は電気屋でも普通に買えますが、そもそも買おうと思う人が少ないですよね……。

ただ、近い将来HMDが大ヒットする可能性がワンチャンあるかもしれません。ゲームの入力装置と連動し、顔の向きを検出できるしくみが商品化されつつあります。これができるようになると、HMDを付けたまま左を向くと視界がそのまま左に動くようになります。FPSやレースゲーム、ハーレムゲームでのユーザ体験が飛躍的に向上しそうですね。アイドルプロデュースも捗りそうです。

余談ですが、HMDのようなそうでもないようなものは今までいろいろ出てきました。何と言っても有名なのは、任天堂のバーチャルボーイでしょう。3Dという先進コンテンツを扱った目の付け所は良かったのかも(?)しれませんが、ちょっと時代を先取りしすぎました。

ゲームだと、PSPの「メタルギアアシッド2」に付属した「とびだシッド」という珍商品もあります。PSPに装着することで、HMD的に3D映像が見れるというものでした。こちらは単なるオマケということもあり(そして本編が面白かったこともあり)、そこそこウケたようです。

そして、このとびだシッドと同じような商品が最近ちょこちょこ発売されているようです。そう、スマホで同じようなことができるということですね。ただ、これらの商品は本物のHMDと違い、遠くに大きなスクリーンが見えるようには見えないという欠点があります。それの何が問題かは、やはり3章で説明します。

偏光グラス(3Dメガネの一種)を使った3D

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Photo by Frédéric BISSON

ここからかなり一般的なものになります。いわゆる3Dメガネを使った立体視ですね。ただ、3Dメガネにも大きく2種類あり、そのうちのひとつがこちら「偏光グラス」になります。「パッシブ方式」などとも呼ばれますね。

偏光グラスはメガネですから、もちろん偏光グラスに対応した「スクリーン」や「テレビ」などが必要になります。映画館の3D上映はこの「偏光グラス」方式が主流です。家庭用テレビでは以前は亜流でしたが、最近はこちらの方式も増えてきました。

偏光グラスには「偏光フィルム」というものが貼られており、ものすごく乱暴にざっくり言うと、左右のレンズが「縦の光」と「横の光」しか通さないようになっています。そして対応のスクリーンやモニターは左右の目の映像を「縦の光」「横の光」に分解して見せるようになっている、というわけです。

なお、「縦」「横」というのは説明上の概念的なものだと思ってください。昔の偏光グラスは本当に縦と横で光を遮っていて、レンズ同士を重ねて90度回すと光を通さなくなったものです。この仕様だと顔を傾けただけで左右の映像が混ざってしまうクロストーク現象が発生する問題がありました。最近の偏光フィルムは改良されており、このようなことは起こらないようになっています(円偏光という技術が導入されました)。

3D映像におけるこの方式のメリットは、何と言っても安くてお手軽なことです。テレビや映写機もそれほど高価な設備となりませんし、メガネは品質を気にしなければ100円で買えます。メガネはフィルターが入っているだけなので軽く、傍目にはただのサングラスです。映画館で何百人のお客さんに配るには最適ですよね。3Dテレビを大人数で見る場合も安上がりです。

デメリットは、角度によってはクロストークが発生しやすく、見づらくなる場合があることです。

家庭用のテレビやPCモニターの場合、また別の問題があります。普段は3Dメガネをかけないので気づかないのですが、実は偏光フィルタの3Dテレビは画面に最初から「左目用と右目用の映像だけを通すフィルム」が貼られています。つまり、画素によって左目と右目のどちらに見られるかが、予め決まっているわけです。このフィルムは縦1ドットの横1列ごとに別れており、上から奇数列目と偶数列目で左右の映像が異なるようにできています。これが何を意味するかというと、3Dで見た時の画面の(片目あたりの)解像度が半減するということです。

また、特にPCゲームなどで起こりうることですが、縦1ドットの横線があったりした場合、片目でしか見ることができません。このためテキストの文字が非常に読みづらいことがあります。水平に近い斜めの線であっても、左右の目でチラチラする現象が発生します。

これらの問題は劇場の3D上映では発生しません。何故かというと、劇場の偏光映像はスクリーンにフィルムを貼っているわけではなく、映写機を2台並べて、左右の偏光映像を重ねて映し出しているからです。ですので、左右の目には通常の解像度の映像が映りますし、チラチラすることもありません。一般的に、映画館の偏光グラス3D環境は家庭より良好なことが多く、クロストークも発生しにくくなっています。

偏光グラス方式は家庭用テレビだとLGや近年のソニーなどが採用しています。PCモニターだと、やはりLGが製品を作っていましたが、最近は生産していないようですね。良い商品だったのですが。

アクティブシャッター方式の3Dメガネを使った3D

もう一つの3Dメガネの方式です。こちらは偏光グラスに比べるとかなりハイテクです。画面に左目用の映像と右目用の映像をものすごいスピードで交互に映すとともに、それに合わせて3Dメガネが高速で映像を見せたり見せなかったりする(シャッター)ようになっています。

メリットは、実際に映像をシャットアウトしているので角度などによるクロストークが発生しにくく、鑑賞者の位置などに影響されないことです。

しかし、デメリットは多いです。まず、メガネとテレビの間で同期をとる必要があるため、設備が高額になりがちです。これはテレビだけでなくメガネも同様です。6000~8000円くらいすることが多いようです。また、メガネ側が能動的に動くので、電池が必要だったり重量が増したりします。そして厄介なのが、ガチな機械であるため壊れる&不具合を起こすことがあります。一方、偏光グラスの場合はただのフィルム&サングラスだから故障はありません。

また、アクティブシャッターは実際に目で見えるフィルターのため、映像が暗くなる上、目が疲れやすいという欠点もあるようです。ただ、筆者はこの方式の機器を持っていないのでしっかり体験したことは無いのですが……。

このような特性から、リッチなご家庭で確実に綺麗な映像を見たい場合に使用するのに向いています。この方式が映画館で主流でない理由もよく分かりますね。メガネを落っことしたり盗難されたりしたらたまりません。

なお、PCゲーム業界ではアクティブシャッターが標準になっています。NVIDIA 3D VISIONと呼ばれるのがそれで、モニターとグラフィックカード、OSとドライバーが一体になって3D表現を実現するというものです。特に海外の大手ゲームはこの仕組みに対応しているため、対応ゲームを3Dで遊びたい場合は、必然的に対応モニターを買う必要があります。ただ、NVIDIA 3D VISION対応のPCモニターは、規格外の画面分割系3D表示(後述のサイドバイサイドやトップアンドボトムなど)に対応していないことが多いため、正直ちょっとビミョー感もあります。

もう一つ、家庭用の3Dプロジェクターもアクティブシャッターが主流です。偏光グラスを使用したプロジェクターもあるにはあるのですが、スクリーンを特別なものにする必要があり、家庭ではあまり用いられていません。

いずれにせよ、アクティブシャッター方式は「ちょっとリッチ」な方式です。バッチリ機能すればクロストークの少ない良質な3Dを得られます。テレビだとシャープなどがこの方式を全面的に採用しています。PCモニターはNVIDIA 3D VISIONのサイトを参照すると良いでしょう。ただ、2015年現在では筆者個人としては偏光グラス方式をオススメします。

グラスレス3Dモニター

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Photo by Paul Coles

3Dメガネを使用しない立体視の方式です。近年技術の向上が進み、採用している機器が増えてきました。

代表格はなんといっても「ニンテンドー3DS」でしょう。おそらく世界で最も普及している3D立体視デバイスだと思われます。3DSの立体視特性については3章で詳しく見ていきます。

また、最近は大型のテレビにも搭載されていたりします。以前は、グラスレス3Dモニターは「左右の目の映像」を視聴者の目に正確に映しだす必要があるため、視聴位置が限定されているのが大きな欠点でした。しかし技術の向上により、視聴者の顔を認識して、そちらに向けて左右の映像を振り分けて映しだすというとんでもないことをやってのけます。この機能はNew3DSにも搭載されました。人間の技術って凄いですね。

裸眼立体視のメリットは言うまでもなく「メガネが必要ないこと」ですが、欠点もあります。なんだかんだ言ってクロストークが発生しやすいんですね。例えばアグラをかいてテレビを見ているお父さんと、その膝の上に座る幼女の目はX軸的な意味で非常に近くにあるため、こういった場合に正確に左右映像を映しだすのは非常に困難です。3DSのように視点が基本的に固定されている機器のほうが向いている方式と言えます。

グラスレス3Dのテレビは何社か出しているようですが、有名なのは東芝のREGZAでしょうか。他にも一部の携帯電話や立体写真カメラなどで採用が見られます。

アナグリフ

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Photo by IvanClow

アナグリフという名称を聞いたことがない人も多いかもしれませんが、要は赤青メガネ方式のことです。昔は雑誌の付録などでよく見かけましたね。

原理は単純です。赤いセロハンを通すと赤い絵は見ることができなくなり、青い絵は黒く見えます。反対に青のセロハンは青い絵を見えなくさせ、赤い絵を黒く見せます。受験勉強などでおなじみですね。

これを利用して左目用の絵だけを青く、右目の用の絵だけを赤く描いておき、左目に赤のセロハンを、右目に青のセロハンを通して見ることで黒い部分の両眼視差を得ることができる、というわけです。

この方式のメリットは、映像出力側がカラーを出すことができれば後は一切の制限がないことです。印刷物ですらOKというのはこの上ない利点ですね。また、メガネの調達が非常に簡単、自作すら可能というのも心強いポイントです。

デメリットはカラーの映像には使うことができないこと……と思いきや、なんとカラーでのアナグリフ映像を見る技術というのは確立されています。とはいえ、赤青のセロハンを通して見る映像はさすがにチラチラしますし、画質としても彩度やコントラストを抑えなければならない制限があったりします。非常にお手軽ではありますが、やはり使いドコロが限られる方式です。

この連載ではアナグリフについてはこれ以上の説明は行いません。加法混色と減法混色でのアナグリフの違いなど、ネット上には面白い情報がたくさんありますので、興味のある人は調べてみてください。

裸眼立体視(ステレオグラム)

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なんの設備も要らない究極のアナログ方式、それが裸眼立体視(ステレオグラム)です。左目用の絵と右目用の絵を並べて、左目で左目用の絵を、右目で右目用の絵を見ます。どうやって見るのか?寄り目または離れ目を使うわけですね。力技!

裸眼立体視には2つの方法があります。

まず、左目で左側の絵を、右目で右側の絵を見る方法。これを平行法と呼びます。この場合、左目用の絵は左側に、右目用の目は右側に配置することになります。目の動きとしては「離れ目」になりますね。

次に、左目で右側の絵を、右目で左側の絵を見る方法。これを交差法と呼びます。この場合は左目用の絵は右側に、右目用の目は左側に配置することになります。目の動きは「寄り目」です。

上のフィギュア写真の場合、左から順に「右目」「左目」「右目」の写真が並んでいますので、左2枚だと交差法、右2枚だと平行法で見ることが出来ます。平行法と交差法の違いは目の左右だけですので、並んでいる絵の左右を入れ替えればそのまま平行法と交差法の絵が入れ替わります。

この方法のメリットはなんといってもカラダひとつでできる「技」であることです。立体視用の絵が2枚並んでいればいつでもどこでも立体視できちゃいます。しかもこの技は応用が効き、2つの絵の「間違い探し」にも使えたりします。できないよりはできたほうが良いでしょう。

欠点は、「技」なので練習しないと習得できないこと、人によっては難しいことなどが挙げられます。また、特に平行法は大きな絵に弱く、立体感に乏しくなりがちなところも欠点です。

あと、これまでの方式と異なり「2枚の絵が重なるのではなく横に並んでいる」必要があるため、同表示面積で比較した場合に絵が小さくなるという問題もあります。

この方法は静止画でやったことがある人が多いと思いますが、動画でも問題なく適用できます。

平行法は左目で左の絵を、右目で右の絵を見る方法ですので、道具を使うことでアシストすることができます。たとえば下敷きなどを両目の間に立てたり、チップスターの筒2本の底を抜いて双眼鏡のように見ることで簡単に立体視できます。実は、ヘッドマウントディスプレイの項で出てきた「とびだシッド」やスマホ用のレンズなどはこれと全く同じ原理だったりします。

裸眼立体視の具体的なやり方は1.6.項で説明します。

  • 次回「1.4.擬似立体視の種類(ソース編)」
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