映画「ズートピア」感想(ややネタバレ注意)


ウサギの気持ちになるですよ?

寂しいと死んじゃうやつだ。仁奈ちゃんは寂しくさせない!

なんかやたら面白いと評判なので、映画「ズートピア」を見に行ってきました。結論から言うと、ちょっとビックリするくらい面白い映画でした。これは凄い。「面白さ」のスケールに自分で驚くほどの面白さ。アメリカ人すげえ。核心には触れませんが、そこそこ内容には触れていきますのでネタバレにご注意ください。

重いテーマと軽いノリ、そしてどこまでも真摯

この映画は見る前から評判が聞こえていました。それは「ディズニーお得意の夢と希望の世界……ではない現実を描いた作品」だということ。キービジュアルとは裏腹に、とても重いテーマを扱った作品だということは知っていました。それがちょっと気になって、普段あまり見ない洋画を見てみようとなったわけです。

そのテーマとは、ずばり「人種差別」。もっとも、作中では動物なので、動物種差別ってとこですかね。主人公のウサギのジュディは夢にむかって懸命に努力し、見事ウサギとして初の警察官という職業に就くことになります。しかし、屈強な動物が多い警察署の中では「ウサギに警察官がつとまるわけがない」と見下されてしまうわけですね。そして、この差別という問題はウサギだけではなく、「ヒーロー」ポジションのキツネのニックや、作中のさまざまな動物たちに深く絡んできます。特に後半、ジュディのとった行動で、「ズートピア」の街は大きな問題に直面していくことになります。

人種差別問題といっても「差別はいけませんねやめましょうね」などといった簡単な描き方はまったくされていません。良かれと思ってした行動が裏目に出てしまったり、弱者と強者が局面で簡単に入れ替わってしまったり。このあたりの脚本は本当に秀逸で、知能を持った動物(=現実的には人間)にとって本当に怖いものは何かということがクールな視点で描かれています。

しかし、こんな重いテーマを扱っていながら、本作は非常に軽いノリです。いつものアメリカ映画なんですね。全編がユーモアとウィットに富んでいて、まったく説教臭さはありません。ジュディが思い悩むシーンや、ニックが激昂するシーンはありますが、映画全体ではアクセント程度のもの。基本的にポジティブで優秀な主人公コンビがサクサクと事態に対処していきます。それこそ退屈するヒマもなく。

そして何が凄いって、テーマと関係ないシーンがほとんどないこと。映画全体を通して、描きたいと思っていることを真っ直ぐ、真っ直ぐに描いていることが何より素晴らしい。ワンシチュエーションコメディならともかく、これだけの場面転換と登場人物がある膨大なボリュームの作品でありながら、ここまでテーマが真っ直ぐに突き刺さってくるこの感じはちょっと経験がありません。これができる作品がどれだけあるというのか。

言うまでもないことですが、「異なる動物が仲良く暮らせる理想郷」での「差別にまつわる問題」は、ずばりアメリカそのものです。それをおちゃらけるかのように軽く扱い、そして真面目に取り組んで見せる。本気でエンターテイメントしている国はやっぱり違うんだなあと思わせる作品でした。心に響いたよ。

もはや語るまでもない美しすぎるCGと、「陸運局のシーン」をはじめとしたアメリカンコメディの真髄、時には涙をさそう情緒的なシーン。さすがハリウッド。しかし、そんな言葉では語れない、明らかにひとつ上の次元の映画でした。俺はエンタメの人間じゃないけど、勉強になったくらい。娯楽ってのはこの次元まで昇華できるんだな。


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