1.1.両眼視差と立体視 : 【連載】独学で立体視論まとめてみた
2015年7月5日(日) 技術(画像処理)
Photo by t i g
学生時代、生物の時間にこんなことを習った記憶があります。「草食動物は捕食者をいち早く見つけるため、広い視界を確保できるよう顔の側部に目がついている。それに対し、肉食動物は獲物までの距離を正確に測るため、顔の前部に目がついている」
いまや「草食」「肉食」といえば「男子」「女子」と続くのがセオリーになってきた感がありますが……。それはともかく、肉食動物の「距離を正確に測る」というのはどういうことでしょうか。目が前についているとよく見えるから?
正解は「2つの目で同時に視界に捉えられる範囲が広いから」です。人間や動物は「2つの目で同じものを見る」ことで、対象までの距離を知覚することができます。
最初の章では、立体視の原理について、基本的なことを説明したいと思います。
両眼視差
一般的な人間の顔には目が2つついています。障害があったり、邪眼が開いている人はこの限りではないかもしれませんが、多くの方は2つだと思います。
目が2つついているというのはいくつか利点があります。まず、先天的もしくは後天的な「故障」に強いこと。目がひとつ使えなくなっても、もうひとつが残っていれば生存戦略的になんとかなりそうなもんです。要するにバックアップですね。
そしてもうひとつ、ものを立体的に見ることができることです。しかし、なぜ2つの目で見ると立体的に見えるのでしょうか。ってか立体的に見るってそもそもどういうことなんでしょう?
人間の目の位置は左右で7センチ前後離れています(大人の場合)。7センチ離れているだけですからだいたい同じ絵が映りますが、厳密には7センチ分、少しだけ違う絵になるはずです。この左右の目で見た時に生じる画像・映像の違いのことを「両眼視差」といいます。
両眼視差を擬似的に再現するのは簡単です。デジカメを用意して、カメラを7センチ横にずらして同じものを撮るだけです。角度や明度が正確で風や波などの時間変化がなければ、それだけで立体視画像になってしまうくらいカンタンです。うちのフィギュアをちょっとズラして撮ってみたら、あっさりステレオグラム写真にすることができました。
それでは、2つの目で見た結果生じる、この「両眼視差」がどのようなものなのか、図形的に少し詳しく見てみましょう。
右へ左へと動くだけ
下図をご覧ください。2つの目の前に3本のカラーコーンが立っています。左奥から、青・黄・赤です。2つの目は今、黄色のコーンを中央に捉えています。(コーンの画像:avaxhome.ws様)
すると、それぞれの目は下図のような絵を捉えることになります。僅かな違い(両眼視差)に注目してください。左目で見た方がコーンの間隔が広いように見えますね。
黄色のコーンを中央に捉えているのでそれを基点にすると、左目では奥のコーンがより左に、手前のコーンがより右にあるように見えます。それに対して、右目では奥のコーンがより右に、手前のコーンがより左にあるように見えますね。
改めて上から見た図です。
このように図示すると、コーンの間隔が変わって見える理由がよく分かります。
もっとシンプルな場合を考えましょう。下図をご覧ください。
向こうから眉間に向かって鉄砲を撃たれてしまいました。そんな状況での、弾が飛んでくる様子を捉えたものです。左目では、弾がどんどん右の方へ動いていきます。それに対して、右目では弾がどんどん左の方に動いていくように見えます。あっ、死んだ。
両眼視差におけるこれらの現象について、こんな言い方ができそうです。
「左目では、遠くのものは左の方に、近くのものは右の方に見える」
「右目では、遠くのものは右の方に、近くのものは左の方に見える」
非常にシンプルですね。
実は「両眼視差」は、これが全てです。他に何もありません。人間の視覚に立体を感じさせる原理やテクニックは他にもありますが、両眼視差による立体視は全てこの原則だけで説明できますし、実現できます。
※なお、「左目より左側で近づいてくるものは左目でも左に動くじゃねーかよ!」という意見もあるかもしれません。それは正しいのですが、立体視は「2つの目で見る」ことが大前提の考え方で、常に左右の目の変位の比較でのみ発生します。その場合、「右目で見ると左目より更に大きな変位で左に動く」ので「左目では相対的に右に動く」と考えてください。そして、この要素は実はまるっと無視できます。立体視で必要な原理を必要十分に言い表したのが上記になります。
次回以降、視聴者に擬似的に立体感を与える「擬似立体視」を見ていきますが、その原理の99%はこの「両眼視差」で実現されています。映画館の3D上映もそうですし、ニンテンドー3DSも同様です。立体視なんて奥が深いようでいて、基本的な原理はものすごく単純なんですね。